COLUMN


渡辺探偵事務所 沢崎の独り言
  私は今時の言葉で云えばアナログな人間なのかも知れない。
紙飛行機を見つめ、過去の出来事が思い浮かんでは、独り気分を害しながら西日がきつい埃っぽい事務所で飲むことが多かったが、新宿の錦織の送別会にどういうわけか偶々招待され、同じく場に相応しくない音痴で唄う事が好きなヤクザと同じテーブルで飲んだ事が、私自身歳を取ってしまったという事を実感させたのかも知れない。
  私にとってBARというのは仕事以外で利用することなど殆ど無かったに等しいが、最近では独り深酒するよりも、適当なタイミングで話しかけてくる存在があった方が心地よく飲めるという事を知った。
大いなる眠りとも言える、あの長い眠りから覚めた筈だったが、前回の愚か者相手の事件以降安定した毎日を過ごす事を余儀なくされてしまったのは、きっと、それぞれの人々が平穏に暮らしている訳ではなく、単に酒に溺れたもう独りのせいなのかも知れない。
オンボロのブルーバードは既に鉄屑になってしまった。 もっともロシアあたりに不正に流れている物は私の鉄屑よりもはるかに高級車なのだが・・・・・。
ともかく、原にはもっと依頼人を連れてきてもらいたいものだとつくづく思う。

BAR Wood Stock
は適当に私を酒に溺れない程度に、適度に酔える時間を与えてくれる場所なのかも知れない。

PS
 ヤクザのような刑事や音痴なヤクザより、マーロウやアーチャーとウィスキーを飲んでみたいと思う。

原尞さん一度お店にのみに来てください!





-L.A.で探偵業を営む 永岡修(サム)の独り言-
  幾度も重ね塗りされたニスの剥がれをなんとか封じ込めようとしているかの様に真新しいニスが塗られたカウンターに、静かに置かれたラフロイグのグラスを見つめると、海の向こうL.A.のマンスフィールド・アベニューにあった行きつけのBARが、唯一心の休まる場所だと考えていた頃が思い出された。海の向こうとこちらとでは似て非なる店構えではあるが、ひと月に出入りする客より棚に揃えた酒の銘柄のほうが多いようなBARと、静かな時間の流れを持つ独特の雰囲気が似ているのかもしれない。
信販会社から請け負う仕事も時間の流れと共に一般旅行者からビジネス旅行者に絡んだケースが大半を占めるようになり、日本とL.A.を往復することが多くなった。 故郷を捨てたつもりの私にとってはあまり気分の良いものではないが、東京へ異動した関口に礼儀的に会う為だ考えるようにしている。
しかし、この静かな空間は、会うたびに関口がいつも口にする「3歳になる君の子の成長を考えると人格形成の為には日本という国も悪くはないのでは」という言葉と、トラウマとなってしまった当時の事件がオーバーラップしてしまう。まだ私は父親としてどうあるべきなのか安田氏のように結論を見出すことができないのかも知れない。
止まり木には白髪混じりの中年男性がカウンターの片隅で、不器用そうに紙飛行機を折りながらグラスを傾けている。
私は今でも、たとえ二晩続けて飲み明かした仲であろうとなるべき相手の私生活には立ち入るまいと決めている。 カウンターで隣り合わせたのをきっかけによき友人になる者もいれば、とれほど笑顔で酒を酌み交わそうと人を受け入れまいとするタイプの人間もいる。私とは反対側の隅でグラスを傾ける人物はおそらく後者だろう。
2杯目のラフロイグを頼むつもりで飲み干したグラスの横に、さりげなくマスターが2杯目を私の前に置きながらドアの方を見つめている。
どうやら3人目となる客がやってきたようだ。
私にとってこのBAR Wood Stockの雰囲気は、心地よく私自身を考えさせてくれる場所なのかも知れない。
PS そろそろL.A.から日本に移り住んでも悪くないかもしれない。
もっともワイフと真保がどう思うかだが・・・・・。